第41話

平成8年11月に里見浩太朗主演「大石内蔵助」を上演。

翌年、里見公演は決まっていたが中々作品が決まらない。公演千秋楽までには決めておかなければと気はせくが、「大石内蔵助」の仕上がりも良く里見さんは上機嫌。毎日のように共演者の皆さんと食事会が続いており企画は煮詰まらない。

ここまで来れば公演が終わって東京でじっくり話し合えば作品も決まると、気持ち良く里見さんに楽日を迎えて頂きました。

御園座公演の後も里見さんのスケジュールはビッシリ。それでも渋谷のNHK収録の合い間を縫って打合せに。

劇場からは、長谷川一夫さんが演じていた「半七捕物帖」の中から名作を上演してはとお願いしたが・・・・・

里見さんは「捕物帖は事件を起こす方が、良く書けてしまうよね」と核心を突いた意見を・・・・・」とうとう、この日も作品は決まりませんでした。

私は、御園座の演劇図書館に並べられている台本を次々と読みましたが、ピッタリと里見さんに合うものが見つかりません。

里見さんがご存知で自分に合うと思える作品は、以前に出演されていた東映歌舞伎公演の時に大川橋蔵さんが主演した演目が一番と「纏一代」を選びました。

この作品で決めなければと背水の思いで東京へ・・・・・

だが、乗った新幹線は関東地区大雨のため少し動いては止まり、又動いては止まりとうとう熱海で立ち往生。東京手前の品川が冠水し列車が数珠繋ぎになってしまっているとの事。

打合せ会場に出席できないことを連絡し、里見さんの自宅へお伺いすることに、ところが新幹線は何時までたっても動く様子も無い。

やっとの事で東京駅へ着いたのは、午後7時すぎ、なんと名古屋から東京まで10時間もかかってしまいました。

里見さんの了解を得て、ご自宅へ・・・・・

ご夫妻に迎えて頂き応接に座るのももどかしく、作品の話を・・・・・そんな私に、里見さんは「篠ちゃん、もういいよ、よしそれで行こう」と決めて頂けた。

ホッとする私に、奥さんから「何にも食べて無いんでしょう」「スキッ腹には肉もいけないと思い・・・・・」と出されたお茶漬けは、本当に美味しかったです。

忘れられない思い出です。